ワシントン大学のジョン・マーズラフ教授は、2006年にちょっと変わった実験を始めた。原始人の顔を模したマスクを着けてキャンパス周辺のアメリカガラス7羽を捕まえ、脚に標識をつけて放した。その後、同じマスクを着けて歩くと、カラスたちは頭上で激しく鳴き、急降下してくる。怒っているのだ。

ここまでなら「捕まえられたから怒っている」で説明がつく。ところが、怒って飛んでくるカラスの中には、一度も捕まえられていない個体が含まれていた。観察を続けると、マスクに敵対反応を示すカラスは増え続けた。約3年後には、反応する割合が26%から66%へ跳ね上がっている。最終的に、53羽のうち47羽がこのマスクに怒りを見せた。元の7羽から7倍近い数に膨れ上がった計算になる。なんとも不気味な話だ。

しかも、この記憶は消えない。観察は2023年まで続けられ、17年間にわたって記憶が保持されていることが確認された。直接捕まえられた経験のないカラスにも情報が伝わっている。これは個体の記憶力ではない。群れの中で「あの顔は危ない」という情報が共有される仕組み——いわば口コミである。

思えば、人間も同じことをやっている。ネット通販でレビューを読むとき、私たちはその店で買い物をしたことがない。それでも星1つのレビューが並んでいれば警戒する。自分で体験しなくても、他者の評価で行動を変える。よく考えると、やっていることの骨格がカラスとそっくりだ。カラスがやっているのは、この評判システムのアナログ版である。

ところでマーズラフ教授の実験には続きがある。「安全なマスク」——捕獲に使わなかった別のマスクには、カラスはまったく反応しなかった。つまり人間の顔を十把一絡げに嫌っているわけではない。ちゃんと選んで怒っている。

もし過去にカラスを怒らせたことがあるなら、その悪評はとっくに広まっている。会ったこともないカラスに怒られるのは、あなたの顔がすでに知れ渡っているからだ。