この小さな体が、とんでもなく頑丈だ。マイナス272°C。プラス149°C。7万5000気圧。宇宙空間の真空。どれを浴びせても死なない。絶対零度まであと1°Cという極限だ。

秘密は「乾眠」にある。クマムシは危機が迫ると、体の水分を85%からわずか3%まで絞り出し、代謝をほぼゼロにして止まる。だが水を抜いただけでは細胞は壊れてしまう。ここで登場するのが、クマムシ固有のタンパク質だ。このタンパク質が細胞の中身をガラスのように固めて、構造が崩れるのを防ぐ。自分の体を内側からガラスにして、時間ごと止めてしまうわけだ。なんという荒技だろう。

東京大学の國枝武和助教らは2016年、クマムシが持つDsupというタンパク質をヒトの培養細胞に組み込む実験を行った。結果、X線によるDNAの損傷がおよそ半分に減った。クマムシの防御装備が、人間の細胞でも機能したのだ。

実は、人間もガラス化の力を借りている。原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物は、液体のままだと地下水に溶け出して危険だ。そこで廃棄物をガラスの原料と一緒に溶かし、冷やして固める。放射性物質をガラスの中に閉じ込めて、数万年封じておく技術だ。クマムシは内側からガラスになって自分を守る。人間は外側からガラスで包んで危険を封じる。同じ「ガラス化」なのに、方向がまるで逆なのが面白い。

ただし、この最強の防御には落とし穴がある。ガラス化には準備の時間が要る。ゆっくり乾く環境でなければ、タンパク質が固まる前に細胞が壊れてしまう。急に乾かされると、クマムシは普通に死ぬ。乾燥に耐える地上最強の生物の弱点が「急な乾燥」だなんて、ちょっと出来すぎた話だ。