ところが、この当たり前を堂々と無視している哺乳類がいる。

アフリカ東部の地下トンネルに暮らすハダカデバネズミだ。体長はおよそ10センチ、体重は大きい個体でも80グラムほど。同じくらいの大きさのマウスが2〜4年で寿命を迎えるのに対し、こちらは37年以上生きた記録がある。体の大きさからすれば、ざっと10倍は長い計算になる。

しかも驚くのは寿命の長さだけではない。このネズミ、年をとっても死亡率が上がらないのだ。

「年をとるほど死にやすくなる」という経験則は、実は約200年前に数式にまとめられている。数学者のベンジャミン・ゴンペルツが、人間の死亡率が年齢とともに指数的に上がっていくことを示した。この数式は保険の掛け金を決める土台にもなっている。30歳の人間と80歳の人間に同じ保険料を設定したら、保険会社はあっという間に破綻するだろう。それくらい堅い法則なのだ。ヒトにもマウスにもイヌにもゾウにも当てはまり、約200年間、哺乳類で例外は見つかっていなかった。

2018年、生物学者のロシェル・バフェンスタイン氏がその例外を統計で示した。バフェンスタイン氏は1980年の学生時代からハダカデバネズミの研究を続けてきた人物で、40年以上にわたって世界最大規模の飼育コロニーを維持している。1種のネズミを40年探求し続けたことになる。200本を超える論文を発表し、Alphabet(Googleの親会社)傘下のCalico Life Sciencesに在籍していた時期に、学術誌 *eLife* で決定的なデータを発表した。何千頭もの飼育記録を解析した結果、死亡率は年齢が上がっても横ばいのままだった。

約200年前に書かれた「老いの方程式」は、ほぼすべての哺乳類に成立する。例外はたった1つ、体重80グラムに届くかどうかのネズミである。