真ん中はデモティックという庶民向けの書体、最下段はギリシア語だ。最も格の高いヒエログリフは14行しか残っておらず、もとの半分近くが欠けている。一方、一番下のギリシア語は54行がほぼ完全に残っていた。

ギリシア語は当時すでに読める言語だったから、その内容をヒエログリフと突き合わせることで、1文字ずつ意味を割り出せる。肝心の「神聖な文字」ではなく、「すでに読める庶民の言葉」が突破口になったわけだ。

この構造、暗号の世界にもそっくりな場面がある。暗号文だけを睨んでいても手がかりは乏しい。だが暗号文の一部に対応する「もとの文章」がわかっていれば、そこから法則を逆算できる。暗号の専門家はこれを既知平文攻撃と呼んでいるが、要するに「答えがわかっている部分から残りを解く」という話だ。ロゼッタ・ストーンのギリシア語は、まさにこの「もとの文章」だった。暗号解読者もエジプト学者も、やっていることの骨組みは同じだったらしい。

この石に人生を賭けた人物がいる。フランスの言語学者、ジャン=フランソワ・シャンポリオン氏だ。1822年9月14日、ついにヒエログリフの法則をつかんだシャンポリオン氏は、兄のもとへ走り、「つかんだぞ!」と叫んでそのまま失神したという。よほどの興奮だったのだろう。目を覚ましてからの9日間で結果をまとめ上げ、フランスの学術団体で発表した。

3種類の文字が並ぶ石碑。答えは、一番下に書いてあった。