ガルヴァーニ氏はこれを「動物電気」と名づけた。生き物の体には固有の電気が宿っている、という主張である。1791年に論文を発表すると、パヴィア大学の物理学者アレッサンドロ・ボルタ氏が異を唱えた。電気を生んでいるのはカエルの体ではなく、真鍮と鉄という異なる金属の接触だ、と。
ボルタ氏は証明に動いた。カエルの代わりに塩水で湿らせたボール紙を使い、生体を完全に排除してみせたのだ。初期のプロトタイプはワイングラスに塩水を注いで異種金属を浸すだけの代物だったというから、なかなか大胆である。こうして1800年に完成した「ボルタの電堆(でんたい)」が、世界初の電池となった。
論争の勝者はボルタ氏だった。ガルヴァーニ氏は反論に消極的で、甥のアルディーニ氏が擁護役を買って出たものの、「動物電気」という概念は否定された。ナポレオンに招かれてパリで実験を披露したのも、金メダルを授与されたのも、伯爵に叙されたのも、すべてボルタ氏の方だ。
ところが、話はここで終わらない。現代の神経科学では、神経細胞は細胞膜の電圧を急激に変化させることで信号を伝えている。活動電位と呼ばれる仕組みだ。神経は本当に電気で動いていたのである。ガルヴァーニ氏の「動物電気」という名前は間違っていたが、生き物の体に電気が走るという直感は正しかった。
負けたはずの人が、200年後に正しかったと分かる。ちなみに、電気で筋肉を動かす現象は今でも「ガルヴァニズム」と呼ばれている。科学の論争は、勝ち負けがつくほど単純ではないらしい。