この電圧はどうやって生まれるのか。発電器官の中身は、電気細胞(エレクトロサイト)と呼ばれる薄い細胞の積み重ねである。1個が生む電圧は、たった0.15ボルト。単三電池の10分の1にも満たない。ところがこれを約6000個、直列につないでいる。小学校の理科で乾電池を直列につなぐと豆電球が明るくなる、あの原理とまったく同じだ。0.15ボルト×6000個。計算すると900ボルトになる。なるほど、860ボルトという数字の出どころである。

しかも体の約80%がこの発電器官で占められている。心臓も胃も腸も、頭に近い前方20%にぎゅっと押し込まれている。おかげで自分の電気で感電しない。体積の8割を武器に捧げた生き物というのは、なかなか思い切っている。

この「小さなセルを直列に並べて大電圧を得る」構造に、後から気づいた人間がいる。電池の発明者として知られるアレッサンドロ・ボルタ氏だ。ボルタ氏が1800年に発表したボルタ電池は、亜鉛と銅の円板を何枚も積み重ねたものだった。ボルタ氏自身が、自分の電池と電気細胞の構造の一致に言及している。

2008年にはジアン・シュー氏とデイヴィッド・ラヴァン氏が、電気細胞のふるまいをナノスケールで再現する人工細胞を設計した。目指したのは、人工網膜など体に埋め込む医療機器のための、柔らかい電源だ。金属の塊は体内に入れられない。ウナギですらないこのナマズは、人間が電池を発明するはるか前から、体の8割で同じことをやっていた。