司祭の名はラザロ・スパランツァーニ氏。パヴィア大学の博物学者で、当時すでに名の知れた研究者だった。眼球を外科的に取り除いてもコウモリが普通に飛べることを確かめ、彼は首をひねった。目で見ていないなら、何で見ているのか。
5年後、スイスの外科医ルイ・ジュリーヌ氏が同じ問いを引き継ぐ。今度は耳のほうを塞いでみた。するとコウモリは方向を完全に失い、壁にぶつかり始めた。「聴覚器官が視覚器官の代わりをしているらしい」。1798年、彼はそう書き残した。反響定位の最初の明確な記述である。
ところが、この発見は約150年もの間、世界に届かなかった。コウモリが出している「声」は人間の耳には聞こえない高い音だった。当時はそれを測る装置が存在しなかったため、二人の結論は確かめようがなかったのだ。正しい答えが、誰にも検証できないまま机の中で眠り続けた。
時間は飛んで1938年。ハーバード大学の大学院生だったドナルド・グリフィン氏が、物理学者G.W.ピアース氏の作った超音波検出器を借りてくる。同じ大学院生のロバート・ガランボス氏と一緒にコウモリへ向けると、装置はコウモリの高い声を確かに捉えた。1944年、グリフィン氏はこの仕組みに「echolocation(反響定位)」という名をつけて発表する。あまりに常識を超えた話だったため、ある著名な生理学者は発表を聞いてガランボス氏の両肩を掴んで揺さぶった。「そんなことが本当にあるのか!」と叫んだという。150年遅れて届いた答えの、衝撃の大きさだった。
仕組みに名前がついたあと、原理はコウモリの体から飛び出していく。1950年代後半、産科医のイアン・ドナルド氏が妊婦の腹に超音波を当て、跳ね返りを拾って胎児の像を映す装置を作った。音を出して、反射を読んで、見えないものの位置を知る。コウモリを参考にしたという記録は見つからなかったが、やっていることの構造がそっくりなのが面白い。
1793年に司祭の部屋を飛んだコウモリは、いま病院の機械の中を飛んでいる。
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