光っているのは、提灯の先にあるエスカという袋状の器官に住み着いた細菌だ。アンコウは細菌を住まわせる部屋を貸し、細菌は家賃のかわりに光を出す。コーネル大学のリディア・ベーカー氏とトリー・ヘンドリー氏らが2019年に細菌のゲノムを読み、正体をつきとめた。

奇妙なのはここからである。この光る細菌、親アンコウから子へは受け継がれない。子のアンコウは生まれたあと、まわりの海水にわずかに漂う同じ種類の細菌を、毎世代ゼロから捕まえ直しているらしい。しかも細菌のほうは、生き物の設計図にあたるゲノムが、自由に暮らす近縁種のおよそ半分にまで縮んでいる。自分で生きるのに必要な遺伝子を多く捨ててしまっており、エスカの外では生きられない。つまり、細菌は宿主なしには生きていけない体になっているのに、子アンコウのほうは毎世代まっさらな状態から探し直す。頼り切られている側が、毎回ゼロから相手を見つけにいっているのである。

ついでに言えば「アンコウ=光る提灯」も、半分は誤解である。鍋でおなじみの食用アンコウにも背びれが変化した提灯はあるが、こちらは光らないとされている。光るのは深海に住むボウエンギョ亜目という別グループだけ。同じ「アンコウ」と呼ばれていても、二つの違う世界に分かれている。

縮んだゲノムで宿主に頼る生き物。直接つながっているわけではないが、よく似た例が、私たちの細胞の中にもいる。ミトコンドリアである。約23億年前、ある細胞が別の細菌を取り込んでそのまま住まわせた結果、現在のミトコンドリアになった。独自のゲノムは持っているが大部分の遺伝子は失っており、宿主の細胞から離れたら生きていけない。

ただし、伝わり方がまるで逆だ。ミトコンドリアは親から子へ、何十億年も同じ系譜を縦に受け継がれてきた永住組。アンコウの細菌は毎世代、海水から呼び寄せる日雇いである。同じ「縮んで頼る」という戦略に、生き物は二通りの答えを出しているらしい。あなたの細胞で今この瞬間も働いている居候は、海水から雇い直されていないだけ、運がよかった。